Netflix「マンク」映画のパラレルワールド

話題の映画の「マンク」を見た。映画館ではない、Netflixで見たのだ。タイトルの「マンク」は、「市民ケーン」の脚本家のハーマン・ジェイコブ・マンキーウィッツのニックネームである。見た理由は、監督がデヴィッド・フィンチャーだからだ。

物語は、マンクが「市民ケーン」の脚本を書き始めるところから始まる。主役を務めるのはゲイリー・オールドマン。盛りを過ぎたハリウッドの脚本家の酒浸りの生活と強い正義感の頑固さを演じている。「市民ケーン」は、新聞業のハーストが、モデルとされている。そのハーストと、脚本を書いたマンクが友人であったことは、知らなかった。

ドラマは、「市民ケーン」の脚本をめぐって、オーソン・ウェルズ、ハーストやその愛人だったマリオン・デイビスとの葛藤を描く。

「市民ケーン」はモデルがあった

少し事実と違う事は多いが、新聞王のハーストが金に任せて、女優を愛人にして映画を作ったりするような当時の映画界を描いている。マンクは、自らもその中にいたハリウッドの映画界の人々やそのエピソードをもとに、「市民ケーン」を書いたことがよくわかる。この映画「マンク」を見るまで、「市民ケーン」は完全な創作だと思っていたが、かなり現実に近い世界を舞台にして、脚本家としてのマンクは、バラの蕾などを含むエピソードを加えて、映画を完成させたのだということがわかった。

マンクが、ハーストのパーティに乱入して、酔い潰れて吐いた後で、脚本を読んでいたハーストは、あまり表情には出さないが、マンクを締め出すシーンがある。友情を犠牲にしてでも、作品を書き上げたマンクの苦しさがよくわかるシーンだ。このシーンは、デヴィッド・フィンチャーが百回以上も撮り直しをしたそうだが、最も重要なシーンだと思う。

スーパースターのマリオン・デイビス

「マンク」の中では、マリオン・デイビスは出演作が興行成績の良くないと言うことになっているし、彼女をモデルにした「市民ケーン」の登場人物のスーザン・アレクサンダーは才能のない女優と言うことになっているが、事実は、マリオン・デイビスは成功した女優だった。1930年代の映画界のトップスターだったそうだ。

この映画「マンク」の脚本家は、監督のデヴィッド・フィンチャーの父親のジャック・フィンチャー。この映画を見たのは、最初に書いた様に、話題になっていることもあるが、デヴィッド・フィンチャーは好きな監督だからだ。「セブン」、「ファイトクラブ」、「ドラゴンタトゥーの女」、「ゴーン・ガール」どれも好きな監督だ。

「市民ケーン」とのパラレルワールド

映画はモノクロで撮られている。これはデヴィッド・フィンチャーが、「市民ケーン」と同じような雰囲気で撮ることを意図したからだそうだ。そのために、映画会社は、モノクロ作品を良しとしなかったので、制作が遅れ、最終的にはNetflixの作品になったということだ。この映画を見ていると、「市民ケーン」と入れ子構造の様な感じがして世界が広がる。デヴィッド・フィンチャーの意図した様に、2つの映画を裏と表で同時に見ている様な感覚に襲われる。早速、「市民ケーン」をもう一度見ようと思っている。

「市民ケーン」の雰囲気は、モノクロ映像だけではなく、音声も、当時と同じ様に、1チャンネルに全てが録音されているそうだ。

オーソン・ウェルズは、「市民ケーン」の脚本を書かなかった

登場するオーソン・ウェルズの声は、オーソン・ウェルズのものまねをする役者が雇われて吹き替えられていると言うことだ。声が似ていると思っていた。

この映画を見て、最大の驚きは、オーソン・ウェルズの最高傑作と言われる「市民ケーン」は、彼が脚本に参加していなかったと言う事だ。世の中は、知らないことが多すぎる。

当時の映画界の雰囲気が出ている

面白かったのはマンクが、MGMのアーヴィング・タルバーグのオフィスに入っていくと、タルバーグが、秘書に「二度とマルクスブラザーズをオフィスに入れるな」と言う。そして「マルクスブラザースがオフィスでポテトを焼いた」と言うシーンだ。これはそういう事実があったらしい。マルクスブラザースは映画の中だけではなく普段からそういう生活をしていたようだ。当時の映画界の雰囲気が伝わってくる。

映画の中ではF・スコット・フィッツジェラルドのことも少し出てくるし、MGMのアーヴィン・タルバーグは、フィッツジェラルドの「ラスト・タイクーン」のモンロー・スターを思わせる。映画スタジオの若き天才で多くの映画の制作を仕切っている。若くして亡くなった所も同じだ。もっとも「ラスト・タイクーン」の最後でモンロー・スターは亡くなったかどうかわからないのだが。

デヴィッド・フィンチャーは、この「マンク」を皮切りにNetflixと4年間の独占契約をしていると言うことだ。デヴィッド・フィンチャーほどの監督を、独占契約すると言うNetflixの今の映画会での地位を象徴するような話だ。知らなかったが、デヴィッド・フィンチャーは、過去にもNetflixのために「ハウス・オブ・カード」と「マインドハンター」の監督をしている。「ハウス・オブ・カード」は見ているがデヴィッド・フィンチャーが監督だとは知らなかった。当時は、映像配信の会社が作るテレビドラマと言うふうにしか考えていなかったから、監督が誰だとかは考えもしなかったからだ。