ニューヨーク・タイムスのビジネスモデル進化

ニューヨーク・タイムスが2021年第3四半期で455,000の新しい購読者を加えて、840万購読者となった。かつて発行部数世界一と言っていた読売新聞の現在の部数が738万部だから、ニューヨーク・タイムスが世界1の新聞だ。

1990年代にニューヨークに駐在していた頃、ニューヨーク・タイムスを宅配で購読していた。その頃の発行部数は100万部程度だったと記憶している。常識としては、アメリカでは全国紙と言えるのは、USA Todayだけで、それ以外は全て地方紙ということだ。だからニューヨーク・タイムスを始め、著名な新聞も発行部数は少なかった。

全国紙のUSA Todayはマック・ペーパーと言われ、マクドナルドの大量生産のハンバーガーのように、質が低いと言うレッテルが付いていた。確かに短い記事がまとめられた、新聞のダイジェスト版のような感じがした。そのために、通常の新聞とは考えられていなかった。

しかし、その当時から、地方紙といっても、ニューヨーク・タイムズは、ウォールストリートジャーナルと並んで特別な地位にあり、アメリカのどこへ行ってもホテルなどでは買えた。ニューヨークというビジネスの中心の新聞ということで、特別なブランド感があった。

ニューヨークタイムスの840万の購読者数のうち、紙の新聞の購読者が76万だ。紙の新聞の購読者はどんどん減り続けている。その減少の数も徐々に増えており、多くの人が紙の新聞から電子版に切り替えていると言うことがよくわかる。

ニューヨークタイムスも積極的に電子版の価格のプロモーションを行っており、紙の新聞の発行から電子版のほうに移行しようとする意思が感じられる。

現在のプロモーション価格は、最初の1年は週に50セントと言う価格だ。あるいは年に20ドル。日本の新聞に比べると圧倒的に安い。このプロモーション価格の時期が終わると、価格は週に2ドルか、年に60ドルに変わる。この価格でも、日本の新聞などに比べると安い。

電子版は、印刷・配送などの追加のコストがかからないから、安い価格でも問題がないということだろう。この辺は、購読料とそのもう一つの収入源の広告収入との関係がありそうだ。当然、購読者が増えて、ページビューが増えれば、その分広告収入も増える。だからこの両者のバランスをとりながら価格設定や経営判断をしているのだろう

日本の新聞は、毎年大幅に部数を減らしてきている。かつて世界一の新聞であった読売新聞は1000万部を超えていたが、2011年に1000万部切り、その後大幅な減少を続け、ついには738万部になってしまっている。第二位であった朝日新聞も、800万部を超えていたがやはり2009年ごろから減少が顕著になり2021年3月の時点では、475万部まで部数を落としている。

当然のことながら日本の新聞社も電子版の提供を行っている。しかし読売新聞では電子版のみの購入はできず、紙の新聞の購買者が電子版のすべての記事を読めると言う前時代的なビジネスモデルになっている。朝日新聞は、電子版のみの購読が出来るようになっていて、記事を無制限に読めるスタンダードコースは1980円、しかし新聞と同じ内容のものを読もうとすると3800円となり紙の新聞だけを買うのと変わらない。電子版が最も成功している日経新聞も同様で、電子版のみの購読だと4277円、紙の新聞の4900円よりも安くはなっているが、少し安いだけだ。ちなみに、紙と電子版を購入するセットの場合には5900円である

日本の新聞では朝日も読売も電子版の購読者数を発表していない。日経だけが発表していて、紙と電子版の合計で275万部、電子版のみの有料の購読者数は76万人と発表されている。

ニューヨーク・タイムスの電子版への取り組みと比べてみると、明らかに日本の新聞は保守的だ。電子版の積極的な価格政策やプロモーションを行うと、紙の新聞のビジネス影響が出るために、いやいや電子版もやっていると言うことが見える。これではまるで茹で蛙のように、紙の新聞のビジネスの崩壊を待っているかのようだ。実際、朝日は赤字に転落をしており、ビジネスモデルを真剣に考えなければいけない時期だ。

ニューヨーク・タイムスが、経営的にも順調で、昨年はコロナ感染症の影響で広告収入が落ち込んだために影響受けていたが、2021年はそれも回復して,利益額を伸ばしている。経営の健全さを測るフリーキャッシュフローも10億ドルに達したとのことだ。

さらにニューヨーク・タイムスが、インターネットの特性を生かしているのは、新聞のサービスとは別に、ゲーム、クッキング、電子機器のレビューサイトと言う別の有料会員サービスを行っていることだ。2021年の第3四半期の新規契約書の455,000の新規契約のうち、135,000 がこの別サービスの契約者だ。つまり、紙の新聞のときにはできなかった情報提供サービスの多角化が、インターネットを通じて実現している。これも経営に大きく貢献していると思われる。

さらに50の有料のニュースレターも行っていて、有料の情報提供となっている。また、ラジオ番組の制作会社を買収して、音声配信のビジネスにも進出する予定だという。もう一つ、広告が入らないニューヨーク・タイムスのを読むサービスをテストする予定だと言う。こちらはiPadの専用のアプリで、当然広告の入る通常のニューヨーク・タイムズよりも高い価格で提供されるのだろう。

このように見てくると、ニューヨーク・タイムスと言う新聞社は、新聞と言うメディアが出発点であったが、インターネットの時代に合わせて様々なコンテンツを販売するメディア会社に変貌したと言うことがよくわかる。当然日本の新聞の関係者はこれを知らないわけではないので、まだ踏み切らないのは私の知らない様々な事情があるのだろう。