デジタルエコノミーの罠

音楽も定額配信になって、どんな曲を聴くのにも便利になった。昔のようにレコードを出したり、CDを出したり、それがどこにあるのか探したり、そのような手間をかけずとも好きな音楽がすぐに聴ける。聞く方にとってメリットが大きい。

しかし、詳しいことを知らなかったから、アーティストの方でもメリットが大きいと思っていた。新人アーティストが、曲を作って人に聴いてもらいたいと思った時に、以前であればレコード会社に売り込んで、採用になって初めてレコードやCDが発売され、人に届く。ここには、かなり厳しい道があり、多くのアーティストがそこまで到達できるわけではなかった。それが音楽配信であれば、登録をして、人にすぐに聴いてもらえる。そして、聴かれた分だけ収入を得られる幸せなモデルだと思っていた。

しかし、それを私が無知なだけでそういうものでは無いようだ。アーティストには1-Clickいくらでお金が入るわけではないと言うことを知った。

まず、すでに定額音楽配信サービスは、巨大産業となっている。Spotify、 Apple Music、Amazon Music、 Tidal 、Deezeerなど何社も、このビジネスを手がけており、アメリカでは録音された音楽の83%がこのビジネスモデルによるものだ。つまりCDなど他のものは、ほぼ無くなっているに等しい。最大のSpotifyは、全世界で3億5600万人のユーザがおり、そのうち1億5800万人は有料契約者だ。Spotifyは、年に50億ドルを著作権者に払っている。

全体から見るとこのように、音楽配信サービスのために音楽業界は潤っているように見えるが、個々のアーティストには厳しいようだ。そこに私の誤解があったが、アーティストは聴かれた回数で支払いを受けるのでは無く、少し複雑なシステムになっている。まずSpotifyは有料契約者からの収入や無料契約者を対象とした広告収入を全て、合算した上で、Spotifyが全体から3分の1を利益として取る。残りが著作権に分配されるのだが、月の中で再生された回数に応じてその利益が分配される。

この段階で、巨大なヒットがあるアーティストに多くのお金が渡ることになる。クリックされた全体の回数のうち、大ヒットしたアーティストが1%を占めている場合、この全体の金額の1%がそのアーティストに渡ることになる。つまり、回数が少ないアーティストについてはほとんど受け取れないか、受け取るでも微々たる金額にしかならないと言うことだ。

Spotifyには600万人のアーティストの登録があるが、1000ドル以上の収入を受け取ったアーティストはたった184,000人で、アーティストの97%は1000ドルを超えていないと言うことだ。

Spotifyによれば、プロのレベルの目安として、10曲以上登録し、月1000人以上のリスナーがいるアーティストことをあげている。このレベルに達しているアーティストは600万人のうち47万人に過ぎない。

定額配信サービスのようなデジタルのビジネスでは、ロングテールの理論で、数少ない需要があるビジネスに対しても、一定の収入があると考えてきたが、そう簡単にはいかないようだ。

しかも、もしそのアーティストがレコード会社等と契約があれば、Spotify等から生まれる収入も、それらの事業者と分け合うことになり、アーティストにわたる金額はさらに少なくなる。

毎月大ヒットを出し続けるビックアーティストには有利なシステムとも言えるが、新人やまだ知名度の低いアーティストにとっては、ここから収益を上げるのは難しい。

しかし一方で、Spotifyなどの配信サービスからヒットを生み出したアーティストもいないわけではないので、可能性はゼロではないが、難しいと言うことなのかもしれない。ただこれは音楽配信以前の音楽業界でも当たり前の話なのでそこは変わってないとも言える。

定額音楽配信サービスが主流になっていく中で、コロナ禍により実演の機会を奪われたアーティストは、さらに苦境にあり、Spotify等を非難する声が高まりつつあるようだ。先にも書いたようにデジタルエコノミーにより、小さな個人であってもビジネスができると言う私の幻想は少し甘いもののようだ。