Homelandシーズン8

Homelandシーズン8を見終わった。ネタバレになるといけないので、詳細を書かない。

印象として、シーズン8は話としては面白いのだが、展開の真実味にやや欠けると感じた。今までのシーズンであれば、目的に向かって着実に手を打っていくキャリー・マチソンの判断がおかしいというのがまず一つ。それから、全シリーズの終着点となるエンディングはやや納得性に欠けると感じた。

とは言え、テレビドラマであり、エンターテイメントとして緊迫感やどんでん返しといった要素が必要だ。シーズン8も、ハラハラしながら見ると言う意味で引き込まれて見る面白さはある。

Homelandシーズン1を見たのが、もうずいぶん前だが、その設定の面白さに引き込まれた。シーズン1は、アメリカでは2011年の公開だったので、私が日本で見たのは、2012年頃のことだろうか?多分、FOXで見た。その頃は、スカパーかケーブルTVのどちらかと契約していた。

ストーリーは、長い間、捕虜になっていたアメリカの軍人が帰国するが、実はテロリスト組織のアルケイダに転向して、テロリストとして戻ってきたと言う設定だ。これが、緊張感を生む設定で、すごいと思った。

捕虜になった軍人は、亡くなったマケイン上院議員のように何年も耐えた人もいるが、洗脳のような形で敵の勢力に共感を持つようになった人もいる。

これは長年の心理学の研究で、認知不協和をもたらす洗脳の方法が明らかになり、決してありえないことではないと言うことがわかっている。ドラマの中でも、転向して帰国したブロディが、どうやって協力者になっていくかと言う事は丁寧に描かれており説得力がある。

このアメリカに潜入した最強のテロリストとどう戦うかと言うことが、主人公のCIA作戦担当官キャリー・マチソンの使命であり、妄執ともなる。彼女は、双極性障害を持つという設定である。この病気を抱えたキャリーの信念に基づいた行動や計略とその失敗と成功がこのドラマの中心だ。誰も信じない中で、目的のために手段を選ばない彼女の生き方が描かれる。キャリーは、ブローディとの間に娘を持つことになり、敵である転向者に対する理解力を持つことも出来た。この辺りの人間のドラマが共感する点だ。そして、娘を持ったキャリーの喜びと苦悩も丁寧に描かれる点が、単にスパイのドラマではなく、人間のドラマにしている点だ。

このブローディが登場するシーズン3までが1つの話である。ある意味、シーズン3で、このシリーズ終わったとも言える。人気が出たので、続編が次々と作られたということか。

この転向した軍人がテロリストとして国の中枢に帰ってくると言う設定は、独自のものではなく、イスラエルのドラマPrisoner of Warをから採られたものだ。そして、シーズン8の最終話のタイトルもPrisoner of Warで、この元になった作品へのオマージュになっているし、最終話でPrisoner of Warの意味も明かしている。

ブローディーの物語が、シーズン3で終わった後、各シーズンは舞台と敵が変わり、キャリーが敵と戦うストーリーが展開していく。

その中では、ワシントンとニューヨークを舞台にしたアメリカ国内におけるキャリーの戦いを描くシーズン6とシーズン7が個人的には好きだ。理由はいくつかあるのだが、このドラマの主要登場人物であるピーター・クインの活躍が見られると言うこともその一つだ。

この8シーズンに及ぶ長いストーリーを支えているのは、様々なアメリカの抱える問題を巧みに取り入れる脚本だが、最終的には主人公であるキャリー・マチソンと、キャリーの上司、ソール・ベレンソンを演じる2人の役者の貢献が大きい。この2人の関係はキーとなってストーリーを支えている。

キャリー・マチソンを演じるクレア・デインズは、デカプリオと共演したロミオ+ジュリエットで有名だが、このシリーズによって役者としての実力を示した。

ソール・ベレンソンを演じたマンディ・パティンキンは、『クリミナル・マインド FBI行動分析課』に出ていたのを見ただけなので詳しくはわからないが、国益のために長期的に考え行動するスパイの老練さを巧みに演じているように思える。

最初にネガティブに評価を書いてしまったが、8シーズン通して楽しめたことも事実なので、非常に良い作品であり印象的な作品と言うことを最後に書いておく。

ドレスデンのカメラ

NetflixとAmazon Prime Video があれば、大抵のものは見られるし、緊急事態宣言で時間はたっぷりある。10年近く前に見た「Extremely Loud & Incredibly Close 」をまた見た。公開時は2001年のニューヨークのあのテロから10年経った時だった。そして、それから更に10年。年をとるはずだ。9/11の夜は、はっきり覚えている。仕事で重要な出来事があった日でもあるからだ。夜と書いたが、現地のニューヨークでは9月11日の朝、東京では夜だった。

映画の中で、9/11の時にワールドトレードセンターにいて死んだトム・ハンクス扮する父親が残した鍵から、亡くした父を探すかのようにニューヨークのたくさんの人を,、少年が訪ねてあるく。

その鍵のミステリーもうまく解決して気持ちが良いのだが、それよりもあの悲惨な事件を経験した町と家族のストーリーは、つらくもありまた傷ついた人たちの触れ合いは心にしみるように豊かな気持ちになれる。9/11のお話と思っていたが、9/11は始まりで、傷ついた家族、息子と母、死んだ父の両親の家族の再生の話だ。ドレスデン生まれの祖父の話と2つのストーリーからなりたつ小説を、祖父の話を省略した脚本なので小説も読みたいと思っている。

 トム・ハンクスが自分の古いものを見せる場面があり、その中にカメラがあった。ドレスデン生まれの彼の父、少年の祖父からもらったという説明があって、ドレスデンのカメラのエクザクタがストーリーに登場する。このカメラを使って出会った人の写真を少年は撮っていくのだが、どうでもいいことだが、カメラを見せるだけで使い方の説明をするシーンがないので、このフルマニュアルのカメラを9歳の少年が使うのは結構大変だと思うが、それは大目に見ましょう。こんないい話をそんなことでつっこみを入れるからカメラ好きはよくないな。

その登場するエクザクタはウエストレベルファインダーがついていて、ペンタプリズムがないモデルで、確か昔のニコンのようにファインダーが取り換えができたような気もするが、写真のようにウエストレベルで使うのではなく、スポーツファインダーで使っていた。Ihageeイハゲーは少年の指で隠れているが、戦前から続くドレスデンのカメラメーカーでエクザキタの原型は30年代に造られたそうだ。

多分、祖父がもっと登場するのなら、ドレスデン生まれの祖父とカメラの関係などが語られるのだろうが、カメラについての説明は全くなかった。カメラファンとしては先の一点と合わせてやや不満。

映画の冒頭で、9/11のときの有名な写真「フォーリング・マン」が使われる。あの写真は、ワールドトレードセンターの崩壊の写真とともに有名だ。APのカメラマンが撮影し、様々なメディアで使われた。映画の中では、順序が逆に使われて、少年の時間を巻き戻したいという思いが表現されているということだ。

悲しい出来事の中で、父と子のつながりが消えないストーリーを見て、悲しみより希望を見る映画だ。それと、冒頭の「フォーリング・マン」と写真が重要な役割を果たす映画で、写真の映画とも言うのは言い過ぎか。

Netflix「マンク」映画のパラレルワールド

話題の映画の「マンク」を見た。映画館ではない、Netflixで見たのだ。タイトルの「マンク」は、「市民ケーン」の脚本家のハーマン・ジェイコブ・マンキーウィッツのニックネームである。見た理由は、監督がデヴィッド・フィンチャーだからだ。

物語は、マンクが「市民ケーン」の脚本を書き始めるところから始まる。主役を務めるのはゲイリー・オールドマン。盛りを過ぎたハリウッドの脚本家の酒浸りの生活と強い正義感の頑固さを演じている。「市民ケーン」は、新聞業のハーストが、モデルとされている。そのハーストと、脚本を書いたマンクが友人であったことは、知らなかった。

ドラマは、「市民ケーン」の脚本をめぐって、オーソン・ウェルズ、ハーストやその愛人だったマリオン・デイビスとの葛藤を描く。

「市民ケーン」はモデルがあった

少し事実と違う事は多いが、新聞王のハーストが金に任せて、女優を愛人にして映画を作ったりするような当時の映画界を描いている。マンクは、自らもその中にいたハリウッドの映画界の人々やそのエピソードをもとに、「市民ケーン」を書いたことがよくわかる。この映画「マンク」を見るまで、「市民ケーン」は完全な創作だと思っていたが、かなり現実に近い世界を舞台にして、脚本家としてのマンクは、バラの蕾などを含むエピソードを加えて、映画を完成させたのだということがわかった。

マンクが、ハーストのパーティに乱入して、酔い潰れて吐いた後で、脚本を読んでいたハーストは、あまり表情には出さないが、マンクを締め出すシーンがある。友情を犠牲にしてでも、作品を書き上げたマンクの苦しさがよくわかるシーンだ。このシーンは、デヴィッド・フィンチャーが百回以上も撮り直しをしたそうだが、最も重要なシーンだと思う。

スーパースターのマリオン・デイビス

「マンク」の中では、マリオン・デイビスは出演作が興行成績の良くないと言うことになっているし、彼女をモデルにした「市民ケーン」の登場人物のスーザン・アレクサンダーは才能のない女優と言うことになっているが、事実は、マリオン・デイビスは成功した女優だった。1930年代の映画界のトップスターだったそうだ。

この映画「マンク」の脚本家は、監督のデヴィッド・フィンチャーの父親のジャック・フィンチャー。この映画を見たのは、最初に書いた様に、話題になっていることもあるが、デヴィッド・フィンチャーは好きな監督だからだ。「セブン」、「ファイトクラブ」、「ドラゴンタトゥーの女」、「ゴーン・ガール」どれも好きな監督だ。

「市民ケーン」とのパラレルワールド

映画はモノクロで撮られている。これはデヴィッド・フィンチャーが、「市民ケーン」と同じような雰囲気で撮ることを意図したからだそうだ。そのために、映画会社は、モノクロ作品を良しとしなかったので、制作が遅れ、最終的にはNetflixの作品になったということだ。この映画を見ていると、「市民ケーン」と入れ子構造の様な感じがして世界が広がる。デヴィッド・フィンチャーの意図した様に、2つの映画を裏と表で同時に見ている様な感覚に襲われる。早速、「市民ケーン」をもう一度見ようと思っている。

「市民ケーン」の雰囲気は、モノクロ映像だけではなく、音声も、当時と同じ様に、1チャンネルに全てが録音されているそうだ。

オーソン・ウェルズは、「市民ケーン」の脚本を書かなかった

登場するオーソン・ウェルズの声は、オーソン・ウェルズのものまねをする役者が雇われて吹き替えられていると言うことだ。声が似ていると思っていた。

この映画を見て、最大の驚きは、オーソン・ウェルズの最高傑作と言われる「市民ケーン」は、彼が脚本に参加していなかったと言う事だ。世の中は、知らないことが多すぎる。

当時の映画界の雰囲気が出ている

面白かったのはマンクが、MGMのアーヴィング・タルバーグのオフィスに入っていくと、タルバーグが、秘書に「二度とマルクスブラザーズをオフィスに入れるな」と言う。そして「マルクスブラザースがオフィスでポテトを焼いた」と言うシーンだ。これはそういう事実があったらしい。マルクスブラザースは映画の中だけではなく普段からそういう生活をしていたようだ。当時の映画界の雰囲気が伝わってくる。

映画の中ではF・スコット・フィッツジェラルドのことも少し出てくるし、MGMのアーヴィン・タルバーグは、フィッツジェラルドの「ラスト・タイクーン」のモンロー・スターを思わせる。映画スタジオの若き天才で多くの映画の制作を仕切っている。若くして亡くなった所も同じだ。もっとも「ラスト・タイクーン」の最後でモンロー・スターは亡くなったかどうかわからないのだが。

デヴィッド・フィンチャーは、この「マンク」を皮切りにNetflixと4年間の独占契約をしていると言うことだ。デヴィッド・フィンチャーほどの監督を、独占契約すると言うNetflixの今の映画会での地位を象徴するような話だ。知らなかったが、デヴィッド・フィンチャーは、過去にもNetflixのために「ハウス・オブ・カード」と「マインドハンター」の監督をしている。「ハウス・オブ・カード」は見ているがデヴィッド・フィンチャーが監督だとは知らなかった。当時は、映像配信の会社が作るテレビドラマと言うふうにしか考えていなかったから、監督が誰だとかは考えもしなかったからだ。

映画愛の塊、ホームカミング

「ミスター・ロボット」が面白かったので、サム・エスメイルが製作総指揮、監督を務める「ホームカミング(Homecoming)」もAmazon Prime Videoで見てみた。

「ミスター・ロボット」時のように謎の世界に引き込まれ、またまた止められず一気見してしまった。と言っても三日ほどかかっているし、一話が30分なので短いのだけれど。

ジュリア・ロバーツがでているシーズン1の方が緊張感が高く、シーズン2は種明かし的な部分もあり、回答編的な展開。でも、シーズン2では、冒頭からの謎が突如解消される瞬間に驚かされた。そういうことでシーズン2も期待以上。

シーズン1の方が良いと思うのは、ジュリア・ロバーツの演技による部分が大きい。2018年と2022年が交差して話が進む。このあたりの複雑な構成は、「ミスター・ロボット」と同じ。混乱と同時に緊張感を生む。この複雑さを支えているのはジュリア・ロバーツの演技だ。最初は、主役の彼女の役、ソーシャル・ワーカーのハイディは何か隠していると思っていた。そのあたりの秘密が、タイムラインを行ったり来たりするうちに明かされていく。

シーズン2も主要人物を演じるジャネール・モネイが良い。役の中での彼女の困惑が伝わってきて、怖さが迫ってくる。

映像が凝っている

タイムラインを表現するためにアスペクト比が変わるのが面白い。私はこのように途中でアスペクト比の変更がある映像を見たことはない。よくあるのは、モノクロとフルカラーで、タイムラインの違いを表現する。でも、これはあまりにもよく使われているので、ちょっと平凡過ぎる。だから、このアスペクト比の変更は新鮮だった。

また、全体的に映像が良い。1シーン、1シーンが凝っていて画面が美しいのと、緊張感がある。特にエンドのタイトルバックが長く、すぐに溶暗せずに、静止画にすると写真になるようなシーンが続く。音楽と合わせて、この最終シーンが良くてずっと見ていたいと思った。

撮影も有名な映画のオマージュになっているようだ。私でもわかるのは、ブライアン・デ・パルマの独特の画面分割や頭上から平面的に撮影するなどのテクニックが使われる。きっと他にもあるのだろうが分からなかった。

どの程度、サム・エスメイルの指示が、撮影された映像に入っているのかわからない。撮影監督は、Tod CampbellとJas Sheltonがクレジットされている。どちらも良く知らないが、これから調べてみたい。ともかく、全体を通して映像が良い。後から、思い出す様なシーンがいくつも挟み込まれていて飽きさせないというのはすごいことだ。

音楽が凝っている

様々な映画の音楽がそのまま使われていて、画面を見ていても音楽が気になり始める。炎のランナーとか有名な曲もあるが、すべてを覚えているわけではないので気になるという感じだ。ジュリア・ロバーツの母親役のシシー・スペックの「キャリー」の音楽が使われているのは面白い。

有名な音楽が使われることにより、その映画を思い出させる。連想により、文脈を複雑にするのだ。それは効果的で、この「ホームカミング」のシーンが重層的な意味を持つ様に設計されている。

ジュリア・ロバーツ 

初めてのテレビショーだそうだ。若い時からいろいろな映画で見ているが、今回の役が最も印象的だ。一方の主役のウォルターとのシーンは、つらい人生での人間の温かみを感じている雰囲気がよく伝わってくる。特に、二人の最後のシーンには胸が熱くなった。

ボビー・カナヴェイル 

「ミスターロボット」のアーヴィング。彼は、出演回数は少ないが、主役のラミ・マレックに匹敵するくらいの印象を残している。今回も同じような役柄だが、相変わらず強烈。この人を見るだけでも価値がある。

ジャネール・モネイ  

シンガー・ソングライターで、映画「ドリーム(Hidden Figures)」のメアリーの役で覚えていた。かわいい顔をして、意志の強い役にはぴったりだ。シーズン2では中心人物として重要な役割を担い、物語の展開を面白くする。

「ミスター・ロボット」も「ホームカミング」も面白かったので、サム・エスメイルの作品をもっと見ようと思っている。しかし、調べてみると、映画はなく、テレビではBriarpatchという作品に、プロデューサーとして名前を連ねているだけだ。USA Networkで2020年の放送だから、NetflixかAmazon Prime Videoで探してみる。

Mad Men: 広告が元気だった時代

60年代のアメリカの広告業界が舞台。広告業界で働いていたので、興味を持っていたが、7シーズンまである長い作品なので見るのをためらっていた。感染症で出かけらないこともあり、ついに見始めた。

舞台は60年代のアメリカの広告業界。Mad Menのタイトルは、広告会社がたくさんあったというマジソン街からきている。今は、そのあたりにある会社はもう少なくて、おしゃれな会社はトライベッカとかもっと南に会社を構えている。テレビを中心にマスメディアが成長する時代で、広告業界も伸びていた。そんな時代にアイディアで勝負する天才的な広告クリエイティブ・ディレクター・コピーライターのドナルド・ドレイパーが主人公。舞台は中堅の広告会社、スターリング・クーパー。ドレイパーだけでなく、登場人物は、ほぼ全員、 ヘビースモーカー、アル中、女好きとそろっている。女性は、基本的には秘書か、家庭に閉じこもっている主婦。今となっては、いつの時代だろうということの話。

広告制作の会議やプレゼンテーション、クライアントとのやり取りなど、自分の過去の生活も思い出す。

しかし、キューバ危機、ケネディ暗殺、月着陸など当時の現実の事件を取り込みながら広告業界だけでない、その時のアメリカの空気を描いていて興味深い

そういう意味で、広告会社を舞台にしてビジネスマンを描き、広告のビジネスを語るが、それは一部であって、当時の世相を語る方が多い。女性の社会進出、性差別、人種差別、社内政治などだ。また、それだけではなく、夫婦関係、離婚と再婚に伴う家族の変化など多くのテーマが扱われる。

でも、中心になっているのは、不運な生まれのドン・ドレイパーが自分の才能で成功する姿や、秘書として入社した女性でプロフェッショナルになってゆくペギーの姿を、生まれも育ちも恵まれているロン・スターリングやピート・キャンベルと対比させているあたり。彼らが、60年代という成長期に、古い社会の仕組みを壊しながら、台頭するアメリカン・ドリームを体現している。

黄金の60年代というアメリカの繁栄とその裏の苦しみを表現している。成長や成功を望み努力しながらも、成功が彼らを暗い衝動へ追い込んでいく。それが、暗い過去をもつドレイパーと厳格なカソリックで育ったペギーの破滅的な衝動に表れている。

他のことでも、そうだが、日本で起こったことは先にアメリカで起きている。広告会社の企業買収や合併、ハウスエージェンシー、手数料の値下げ競争、クリエイティブからメディア企画での収益アップなど、その後、日本でも業界が直面する問題がいくつも出てくる。

実在する広告会社のマッキャン・エリクソン、コカ・コーラ、ハーシー、コーニング、GM、ジャガーなどが実名で登場する。これは、何らかの承認を得ているのだろうか。特にジャガーの担当者はひどい男で、とんでもない要求をするので承認が得られるとは思えない。

劇中では、あたりかまわず全員が煙草を吸い、(病院でも)ウイスキーを会社でストレートであおる。当時の雰囲気はそうだったのだろう。three martini lunch やwet lunchが当たり前で、当時のアメリカの広告業界では普通の習慣だった。夜は家族のもとに帰るので接待は昼食も多かったということだ。

私のいた会社でも、席や会議室で煙草を吸うのは2000年ころまでは普通だったし、残業中にビールやウイスキーを飲みながら仕事することもよくあった。もちろん、ランチのアルコールは珍しいことではない。

この番組のタイトルバックがカッコ良い。黒いシルエットが、白バックにグラフィックに現れ、使われるパステルカラーと合わせて目をひく。ヒッチコックのNorth by Northwestにヒントを得ているというが、ビルの側面が使われているのは同じだが、使い方が違うので関係ないと思う。むしろ、ビルから落ちる人物のシルエットが、危ない生き方をしている主人公、ドン・ドレイパーの運命を象徴していて、意味的にもよく作られている。

日本の広告業界は、このアメリカのドラマの時代から少し遅れて繁栄の時代を迎えた。Mad Menに登場するような様々な出来事が起こったのだろう。私が入社した1979年は、急成長の余韻の残る時代でもあり、バブルとバブルの崩壊を経て、そのような時代は終わっている。

ファイナル・シーズンの最終話の最後のカットの意味を、まだ考えている。

狂気と驚異の構成:Mr.Robot

テレビをほとんど見ないが、アマゾンのPrime Videoで海外ドラマよく見ている。それも、映画ではなくて海外テレビドラマが好きだ。映画より圧倒的にじかんが長いから、ストーリー展開が複雑で人物像も深く描かれるからだ。でも、次々と見たくなる連続ドラマ避けたいのだが、面白そうなものが多く、ついハマってしまって一日に何回分も見てしまう。できれば1話完結型のもので、連続の要素が少ないものが望ましいのだが、一話完結にしても興味をつなぐ縦糸として連続的な要素が入ってくることが多い。手法として、クリフハンガーよ呼ばれ、宙吊りのように次回につなぐためだが、これがいけない。狙いどおり次がみたくなってしまう。

あらすじ(ネタバレなし)

最近のものでどうしても続きがみたくて、1日に何回分も見てしまったシリーズに、「ミスター・ロボット」がある。最近人気のラミ・マレックの主演するもので、主人公のエリオットはニューヨークに住む天才ハッカーだ。彼は神経症を病んでおり、様々な症状に悩んでいる。それをコントロールするために適度にドラッグを使い、同時に回復のための薬を服用して、中毒の悪化を防いでいる。天才ハッカーなので周辺の人の個人情報をハッキングで手に入れてデータを保存している悪趣味な男だ。

そのエリオットが、ドラマの中ではEコープと言う巨大企業とダーク・アーミーと言う謎の組織との戦いに巻き込まれていくストーリーだ。地下鉄で、Eコープとダークアーミーが企む陰謀を食い止めようとするハッカーグループに参加するように求められる。驚いたことにそのグループを率いているのは、彼が幼い頃に死んだはずの父親だった。エリオットは様々な出来事に対応しながら巨大企業と悪の組織を追い込んでいく。と同時に彼自身の神経症も悪化して何をしているのかわからい状況まで追い込まれる。

ドラマはよくあるような陰謀もののストーリーなのだが、登場する人物の造形やスピーディーな展開と複雑な構成で目を離せなくなる。特にハッカーグループのメンバー、ダレーンやエリオットを追うFBI捜査官のドミニクが良い。

ネタバレになるので、これ以上書けないが、見ていてその緊張感や途中で訪れるちゃぶ台返しに驚くことになる。

ラミ・マレック

主役のエリオット演じるマレックは、今や最も注目される役者だろう。2018年のBohemian Rhapsodyのフレディー・マーキュリーの役は圧巻だったし、2021年に公開が延期されたジェームス・ボンドのNo Time To Die の悪役でさらに注目を集めるはずだ。

ミスターロボットのエリオットの危うさと凄さを演じているのを見ると、彼の才能の豊かさに驚かされる。エジプト系のアメリカ人と言うことなのだが、その独特の風貌はナイトミュージアムに出ていた頃から見覚えがある。エジプト王の役だったがそれはその風貌で採用されたのだろう。プロデューサーでこのシリーズの創造者で脚本家であるサム・エスメルもやはりエジプト系のアメリカ人である。ただし、このドラマでは、エスメルにしてもマレックにしてもエジプト系であるかどうかはあまり関係がない。どちらも才能豊かというだけだ。エスメルが、マレックを主役に採用にあたって、エジプト系かどうかを考慮したかどうかは知りたいものだ。

彼のモノローグが中心になって話が進むが、この声のゆっくりとしたトーンが展開の基調になって、画面とアンバランスな感じが緊張感を高める。

カーリー・チャイキン

Fソサエティの中心人物で、ウイルス・コードなども書くプログラマーのダリーンを演じる。物語の中で重要な役割を果たす。この女優は、今までに見たことはなかった。

途中まで展開がよく分からないのだが、だんだんと彼女の重要性が分かってくる。これ以上はネタバレになるので書けない。そして、彼女が大きな仕掛けを繰り出して、敵を倒してゆく様はなぜか爽快感を感じる。

細かなこだわりが面白い

このドラマの各回のタイトルは、ビデオファイルの拡張子が付いていたり、暗号ファイルの拡張子が付いていたり、インターネット上でのエラーコードのような名前が付いていたりして面白い。ハッカーの物語だから、そこもシャレにしているということか。

ドラマに登場するEコープのロゴをどこかで見たような気がしていたら、エンロンだった。エンロンも史上最大の粉飾決算を行った企業として歴史に名前をとどめているが、そのロゴを使うと言うのもEコープの素性を最初から提示しているのか面白いアイディアだ。

このドラマはニューヨークで撮影されているので、見覚えあるようなところが時々出てくるが、1番印象的なのはEコープの本社ビルの外観で、よく前をとっていた57丁目とレキシントンの交差点にあるビルが使われている。

それから、もう一つ好きなのは、このミスターロボットのタイトルのロゴだが、セガが作っていたフォントだ。セガの会社のロゴやソニック・ザ・ヘッジホックのロゴにも使われていた。

面白いといえば、ハッカー・グループのFソサエティがマスクとして使っているのがモノポリーのおじさんのキャラクターでこれがほのぼのしていて良い味が出ている。

細かいところまで作りこまれていて面白かったが、残念なのはシーズン4の展開が予想通りでもう少し驚かせてほしかった。若干のマイナスでも、好きなドラマということに変わりはない。