Mad Men: 広告が元気だった時代

60年代のアメリカの広告業界が舞台。広告業界で働いていたので、興味を持っていたが、7シーズンまである長い作品なので見るのをためらっていた。感染症で出かけらないこともあり、ついに見始めた。

舞台は60年代のアメリカの広告業界。Mad Menのタイトルは、広告会社がたくさんあったというマジソン街からきている。今は、そのあたりにある会社はもう少なくて、おしゃれな会社はトライベッカとかもっと南に会社を構えている。テレビを中心にマスメディアが成長する時代で、広告業界も伸びていた。そんな時代にアイディアで勝負する天才的な広告クリエイティブ・ディレクター・コピーライターのドナルド・ドレイパーが主人公。舞台は中堅の広告会社、スターリング・クーパー。ドレイパーだけでなく、登場人物は、ほぼ全員、 ヘビースモーカー、アル中、女好きとそろっている。女性は、基本的には秘書か、家庭に閉じこもっている主婦。今となっては、いつの時代だろうということの話。

広告制作の会議やプレゼンテーション、クライアントとのやり取りなど、自分の過去の生活も思い出す。

しかし、キューバ危機、ケネディ暗殺、月着陸など当時の現実の事件を取り込みながら広告業界だけでない、その時のアメリカの空気を描いていて興味深い

そういう意味で、広告会社を舞台にしてビジネスマンを描き、広告のビジネスを語るが、それは一部であって、当時の世相を語る方が多い。女性の社会進出、性差別、人種差別、社内政治などだ。また、それだけではなく、夫婦関係、離婚と再婚に伴う家族の変化など多くのテーマが扱われる。

でも、中心になっているのは、不運な生まれのドン・ドレイパーが自分の才能で成功する姿や、秘書として入社した女性でプロフェッショナルになってゆくペギーの姿を、生まれも育ちも恵まれているロン・スターリングやピート・キャンベルと対比させているあたり。彼らが、60年代という成長期に、古い社会の仕組みを壊しながら、台頭するアメリカン・ドリームを体現している。

黄金の60年代というアメリカの繁栄とその裏の苦しみを表現している。成長や成功を望み努力しながらも、成功が彼らを暗い衝動へ追い込んでいく。それが、暗い過去をもつドレイパーと厳格なカソリックで育ったペギーの破滅的な衝動に表れている。

他のことでも、そうだが、日本で起こったことは先にアメリカで起きている。広告会社の企業買収や合併、ハウスエージェンシー、手数料の値下げ競争、クリエイティブからメディア企画での収益アップなど、その後、日本でも業界が直面する問題がいくつも出てくる。

実在する広告会社のマッキャン・エリクソン、コカ・コーラ、ハーシー、コーニング、GM、ジャガーなどが実名で登場する。これは、何らかの承認を得ているのだろうか。特にジャガーの担当者はひどい男で、とんでもない要求をするので承認が得られるとは思えない。

劇中では、あたりかまわず全員が煙草を吸い、(病院でも)ウイスキーを会社でストレートであおる。当時の雰囲気はそうだったのだろう。three martini lunch やwet lunchが当たり前で、当時のアメリカの広告業界では普通の習慣だった。夜は家族のもとに帰るので接待は昼食も多かったということだ。

私のいた会社でも、席や会議室で煙草を吸うのは2000年ころまでは普通だったし、残業中にビールやウイスキーを飲みながら仕事することもよくあった。もちろん、ランチのアルコールは珍しいことではない。

この番組のタイトルバックがカッコ良い。黒いシルエットが、白バックにグラフィックに現れ、使われるパステルカラーと合わせて目をひく。ヒッチコックのNorth by Northwestにヒントを得ているというが、ビルの側面が使われているのは同じだが、使い方が違うので関係ないと思う。むしろ、ビルから落ちる人物のシルエットが、危ない生き方をしている主人公、ドン・ドレイパーの運命を象徴していて、意味的にもよく作られている。

日本の広告業界は、このアメリカのドラマの時代から少し遅れて繁栄の時代を迎えた。Mad Menに登場するような様々な出来事が起こったのだろう。私が入社した1979年は、急成長の余韻の残る時代でもあり、バブルとバブルの崩壊を経て、そのような時代は終わっている。

ファイナル・シーズンの最終話の最後のカットの意味を、まだ考えている。